浅香光さん(クラフトビール醸造家)

あるお客様が
「目黒の地ビールがあるの知ってる? 美味しいから買ってきてあげるよ!」
と仰って(え、そんな、申し訳ないっ)、
本当に買って持ってきてくださって(す、すみませんっ!)、
飲んでみたら、あら美味しい♪
ビールが苦手な店主も「これならいいかも…」。
これほど美味しいビールなら「ありまさ」のお客様にもぜひ楽しんでほしい! 仕入れられるかしら?!
と工場を訪ねてみたのが浅香さんとの出会いです。

こだわりの少量生産なので基本目黒区の飲食店にしか卸さないとのことですが、
ありまさはぎりぎり目黒区(良かった~!!)。
その後浅香さんの造るクラフトビール「マイスターブロイ」はありまさの大人気商品となり、
浅香さんもご家族でお蕎麦を食べに来て下さったりして、有難いお付き合いをさせて頂いています。

大人気のマイスターブロイ!左からオリジナルラガー、ブラックラガー。

☆☆☆☆☆

目黒区初のクラフトビール醸造所を立ち上げ、製造・販売を一人で担う浅香光(こう)さんがご来店。
お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。

お隣
このビールを造った方?! 美味いですね。いやほんとに、ここに来る度飲んでいますよ。
やっぱりビールが好きでこの道に?

浅香
ビールを造るようになったのはなりゆきです。ドイツ語に関わる仕事を探していた時、ちょうどビールの規制緩和が行われた初期の頃でしたが、日本の地ビール造りをするドイツ人のマイスターに出会いました。彼の手伝いをしながらビールを学び、彼の提案でドイツのベルリン工科大学で醸造学を学びました。私の選択した学科は試験などに落ちなければ2年で修了なのですが、教授の都合でテストが1つ延期になり、結局3年いました。

お隣
ドイツに3年ってすごい情熱ですよ。行った甲斐はありましたか?

浅香
ビールの学術的な知識が得られたのは良かったです。ビール業界に長年携わっていますが、技術や経験は時間をかければ体得できる、でも正しい知識は別だと思います。
私が学んだ醸造学科は、単に機械の扱い方や仕込みの工程を習得するものではありませんでした。

大学の正式な課程であり、数学、化学、物理学、電気工学、生化学、微生物学、植物学などの講義があり、科目によっては実習もありました。それと並行して、醸造設備や仕込み始め、原料から最終製品までビールに関する授業がありました。品質検査などの実習もありました。
面白かったのは現在であれば理化学機器で簡単に出来ることも、実習では敢えて使用せず手作業で行っていたことです。

私が良質のビールを造りたいと思った時、原料から製造工程、出荷して消費されるまでの流れを見直し、どこにどんな問題やリスクがあるのかをイメージして検証した上で製造をはじめましたが、これはドイツで学んだ事が大いに役立ったと思います。

お隣
知識の土台がしっかりしているから出来た味、ですか。

浅香
学科を無事修了した後、ドイツで働きたい気持ちもありましたが、滞在許可や費用の問題など諸々のことを考えると厳しく、先ほどのドイツ人のマイスターの計らいもあって日本の地ビール会社で雇って貰えそうだったので帰国しました。
その後いわゆる地ビール、クラフトビールと呼ばれる会社で数回転職し、日本を転々としながらビールを造っていました。

お隣
ビール武者修行ですね。

浅香
いくつかのクラフトビール会社で仕事をしたわけですが、しばらくして自分が持っているビールに対する考え方が会社にいる方々とは全く異なるようだと気づきました。どう違うのか、うまく言えないのですが…。

恐らくドイツで学んだこと関係があるように感じています。
ならば独立して、自分でできないか? という思いが少しずつ芽生え始めました。

ですが規制緩和されたとはいえ、個人で始めるには依然としてハードルが高く現実的ではありませんでした。一方でどこかに自分と同じ考えを持つ会社があるのではないか?と思っていた部分もあり、転職を繰り返していました。
そんな中、とある会社にいた時、自分の造ったビールを樽で出している居酒屋さんに行って注文してみたのです。
出てきたビールはいつも味見している味と違いました。率直に言って、不味かった。

お隣
樽ということは…長く保存していたんでしょうか? 温度管理かな?

浅香
この体験から自分が目指すものが見えてきました。とにかく品質の良いものを作ろう。そして新鮮なうちに飲んでもらえるようにしよう。
具体的には仕込みの量を少なくし、大量生産せず回転数を増やす。これで劣化を防げます。
全行程を私一人が担うことで、管理が行き届きます。

もちろん味も大事です。美味しい不味いは好みの問題なので致し方ない面もありますが、幸いなことにそれまで私が造ってきたビールは多くの方に気に入ってもらえていたので、きちんと造ればそれなりのものは出来ると思っていました。

酵母は試験管で保存し、フラスコで増やします

次にどのように売るかを考え、小規模で造るならどこでも可能なので「それなら自分の生まれ育った目黒でやろう!」と決断し、発泡酒の製造免許を取得しました。
今は1回に100本ほど生産し、区内の飲食店に限って卸しています。

お隣
ここのご主人に聞きましたけど、ラベル貼りや配達までご自分でなさるそうで、こだわりが詰まってますね。

浅香
今後も取扱店をどんどん増やすという拡大路線ではなく、ビールのことをもっと知ってもらえるような商品展開をし、目黒のビールでお客様を呼べればと思います。
また地元の方に愛されるビールとして小売の新ブランドの展開も考えています。

(おわり 収録・2021春)

浅香光(こう)さん プロフィール
ベルリン工科大学醸造学科で学び、日本各地のブルワリーで働いた後、目黒区初の醸造所「マイスターブロイ株式会社」を立ち上げる。目黒区内の飲食店への卸売り販売の他、店頭での直接販売も。

マイスターブロイ Instagram
https://www.instagram.com/meisterbrau_meguro/?igshid=ZGUzMzM3NWJiOQ%3D%3D

ありまさのニュースレター(2022年春号)に掲載された樋口詩子さんの推薦文。
お値段は当時のものです。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次