お隣
働きながら語学学校で英語を習得。その後大学にも行かれて、貿易会社の正社員に。
そこからは英語を武器に大活躍ですね。
河村
それが思ったようにはいかないんです(笑)。
当初はヨーロッパやアメリカとの仕事が多かったので英語が役立ちましたが、2000年になるかならないあたりから、取引先がほとんど中国のみになりました。
となると英語ではなく中国語が必要です。
社長が、この方は台湾出身なのですが、会社としても中国語の出来る人が必要だからと中国語の学校に行かせてくれました。中国語は聞き取りや発音が難しくて独学だと時間がかかったと思います。
だから学校に行けたのは有難かった。
少しでも早く上達したいので自費でオンラインの講座を受講することもあったのですが、そこで付先生という、四川出身で大阪に留学していた方と出会います。
彼は中国で国語の先生をしていたこともあり、つまり中国語の専門家で、教えるのがとても上手でした。
残念ながら家の事情で志半ばで故郷に帰ることになりますが、成都で日本語学校を開き、そこの日本文化を紹介する授業に私を呼んでくれたんです。もう簡単な中国語会話はできましたし、着物の着付師の資格も持っていたので。

お隣
うってつけの人材だと。
河村
「ねえちゃん、来て」と言われて(笑)。
日本語の授業なので私も日本語を話すわけですが、相手はまだ勉強をはじめて間もない人達です。
どう話したら日本文化を分かりやすく伝えられるか、彼らが理解しやすい単語や言い回しは? と考えつつ、持って行った浴衣を着せてあげました。
そうしたら、帰りの車の中でその学校の林先生が「おねえさん、今日のレッスンすごく良かったです。おねえさんはきっといい日本語の先生になれます!!」

お隣
おねえさん(笑)
河村
えっ?!
と思いました。とっさに
「日本の文化は伝えられるかもしれないけど、日本語を教えるなんて無理です」
と言ったら
「大丈夫、出来るから。日本語の先生になって!」。
本当に思ってもいない提案というか…。


河村
でも気になるので帰国して日本語教師の養成講座について調べてみました。
それで興味が出て来て、何より林先生もサポートして下さったので日本語教師の勉強をし、資格を取得して、会社員をしつつ日本語教師をはじめました。
お隣
とにかくやってみるんですね。でも生徒さんはどこで?
河村
一番はじめはボランティアで台湾人の友達に教えました。
あとは口コミです。
幸いはじめに教えた生徒が優秀な成績を修めてくれ、台湾には日本語を学びたい人も多いので、生徒は少しずつ集まりました。
日本語を勉強したいという人の動機で意外に多いのが、フジロックに行きたいから。
特に台湾で日本の音楽は人気です。でもそういう人達は、コロナ禍で渡航ができないので今はレッスンはお休みですが、状況が良くなったらまた勉強がはじまるでしょう。
お隣
フジロックがそんなに人気とは!
改めて日本の良さに気づきますね。
河村
言葉を学ぶと日本の良さも、外国の良さも理解できます。
語学は簡単ではないですが、だからこそ一生つきあえますし、学習が進むほどコミュニケーションが深まって楽しくなる。
たとえ翻訳機が発達しても、外国語を学びたい欲求はなくならないでしょう。
お隣
とはいえ難しいし、続かないし。
日本語と外国語だと使う脳が違うんですかね?
河村
母国語と外国語が混ざることはないんですが、私の場合英語を話す場面でとっさに中国語が出たりします。つまり母国語と外国語は違う場所で記憶しているのかもしれません。
言語ごとにキャラクターが変わるとも言われますね。私の場合、英語はクールな感じ、中国語は真面目、日本語はかなり抜けた人格になるそうです(笑)。
日本語教師の仕事は語学も着付けも、これまで学んだことが全部活かせて、この年になって一気に色々なことが繋がってきました。
人生には何一つ無駄がない。
それに、振り返るといろいろな方が助けてくれたり、アドバイスをくれているんです。
面白い英語の学校があると教えてくれたのは初めに勤めたアパレル会社の人、そこから本格的な学校に進み、中国語は会社で習わせてもらい、成都で日本語教師をすすめられ…
お隣
他人の意見も聞くものですね。
河村
私はとりあえずやってみます。行動しつつ考える(笑)。
ダメなら引き返せばいいし、やってから後悔するより、やらない後悔の方がひきずるじゃないですか?
先日はイタリア語の講座に行ってみました。私はイタリア語は全然分かりません。チンプンカンプンなんですが、日本語が全然分からない人の理解したかったんです。
そんな体験もまたレッスンに活かすことが出来ます。
日本語教師をしている限り、教えつつ私自身も教えられる。学び続けられる。それがとても楽しいです。

(おわり 収録2022春)
河村ひとみさん プロフィール

商社OL&副業日本語教師。
明治大学政経学部政治学科卒。ICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)を活用したレッスン、また教師が話し過ぎないレッスン方法について勉強中。
「教えるのではなく共に学ぶ」を目指している。