お客様連絡帳 A様 その4

アンデルセン童話に「エンドウ豆の上に寝たお姫様」という話がある。
「本当のお姫様」というタイトルでご存知の方もいるだろう。子供のころから今に至るまで童話を読むのが大好きな私の、いろいろな意味でお気に入りの一編だ。

今岩波版が手元にあるが3ページに満たない超短編なので、機会があったらぜひ一度読んでいただきたい。

内容をざっくりと説明すると、

あるところに結婚を考えている王子さまがいました。王子さまは結婚するなら「本当のお姫様」でないといけないと思っています。本当のお姫様を探して世界中旅しますが、お姫さまはたくさんいるものの、みなどこかおかしなところがあり、本当のお姫様は見つかりません。あちこち探しましたがその甲斐も無く、仕方なくご自分のお城にお戻りになりました。
あるひどい嵐の夜、全身ずぶぬれの汚い身なりのお姫さまがやってきます。自分は本当のお姫様だから一晩とめてほしいというのです。王子の母(女王)は彼女のためにたくさんの敷布を重ねてふかふかのベッドを作りました。そして、敷布の一番下にエンドウ豆を置きました。何も知らない姫はその上で眠ることになりました。
翌朝よく眠れましたか? と尋ねると、姫は「一睡もできませんでした。何か硬いゴロゴロしたものが肌にあたって、あざもできてひどい目にあいました」というのです。こんなに細やかな人は本当のお姫さまに違いありません。二人は結婚しました。エンドウ豆は今も博物館に保存されているくらいで、本当のお話なんですよ。

というストーリー。

ちなみにあえて岩波版とことわったのは、他にもさまざまなバージョンがあるからで、私が子供のころに読んだものには王子様のところに「本当のお姫様」と「本当のお姫様ではないお姫様(つまり、じゃない方)」が別々に来るものもあった。

じゃない方は身なりがよく、すごい美人。従者も沢山つれている。
そしてエンドウ豆があってもぐっすり眠って丁重にお礼を言って去っていく。
一方で…
と比較対象が織り込まれているものだった。
私はこのお話についてはいろいろと言いたいことがあるのだけれど、とりあえず今はあらすじのみに焦点をあてる。とにかくこの王子さまは思ったことをそのまま言うお姫様こそ「本当」だと思った。そして二人は結婚する。物語の終わりに「二人はずっと幸せに暮らしました」という記述は、ない。

私がAさんの言動にほとんど腹が立たなかったのは、彼女の時には目を見張るような率直さから、「本当のお姫様」を連想したからかもしれない。
思ったことはそのまま口に出してしまう。それがどんな結果を生むかはあまり考えないし、目の前の人への忖度は限りなく少な目だ。

なぜそんなことをするかって?

本当のお姫様だから。

しかし現実には彼女の「忖度なし」を王子様のように好意的に解釈する人はおらず、むしろムッとする人が多く、必然的にAさんのいらっしゃる時間に他のお客様はぐっと減った。

続く

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