蕎麦屋の女将さんが考えたあまり普遍的でない接客の極意 ⑧嫌な目にあったら?上

昔は
「デートで相手を見極めるなら、飲食店の店員さんにどう接するかを観察するといい」
と言われたものですが、今もそうなのでしょうか…?

これはデート相手が立場の弱い人にどう接するのかを見ておくと、その後の長い時間をともに過ごせるのかどうか判るというもので、
確かに人間、いつも若くて元気で調子がいいわけではないし、時には仲たがいすることもあるし、つまり自分が「弱い」くて「その人とちょっと関係性が遠い」存在(店員さんのような立場)になることはあります。
確かにそういう時にどんな振る舞いをする方なのか、知っておくのは大事ですね。

私は思いがけなく蕎麦屋の女将という「飲食店の店員さん」をすることになりました。以前は雑誌やWebのライターをしていました。
(正確には私は「雇われの店員さん」ではなくて「経営者」なので、普通の意味での「店員さん」ではないのでは…というご意見もあると思いますが、お客様からは一見して分からないのでここではざっくりと「店員さん」だということにしておきます。
確かにこの立場の違いで、マインドは随分変わるだろうな…とは思いますが)

店員さんになって
「うわー、こりゃ参った」
と思うのは、ライター時代より確実に嫌な目に遭う確率が上がったことです。
もちろん体が芯から温まるようなほっこりする出来事も多いのが飲食店の仕事ですが、
一方で冬にこんな目にあったら寒すぎて死んでしまうよ…という心が凍り付くような、
あるいは怒りのあまりついつい店頭に塩を撒いてしまうような(古い人間ですね~祖母が明治生まれなので、こういう反応をしてしまいます)、
「寒すぎる…」
としか言いようのない出来事にもまあまあ遭遇します。

こういうこと、ライター時代にはなかったなあ~。

これは、
職業差別?
と思うこともあり
まあ一概にそれだけだと言い切れない面もあるのですが、
一方で確実に飲食店で働く人を下に見る、
そんな方もいらっしゃると思います。

最近でこそ
「お客様は神様です、って…そんなわけないじゃないですか!
お店とお客は対等ですよ。
私はあなたが提供してくれるものに対価を払っているだけですよ」
とはっきり言うお客様もいらっしゃいます。
店は
「いつもご来店ありがとうございます!」
と感謝し、客は
「いつもいいものを提供してくれてありがとう!」
と喜ぶ。ね、上も下もないWINWINの関係でしょ?
と。

でもまあ、これは最新モデルというか、きちんと価値観のアップデートしている方です。
そうでない場合も多々あるのが現実です。

よく
「令和の時代、問題行動を起こすのは若者じゃない。むしろ老人」
といわれますが、これは飲食店で働く人はほぼ全員
「…そうですね」
としか言いようがないのではないかしら…と思うくらい、本当のことで、
でもお年寄りからしたら、
昔はこんなシステムで動いてなかったんですよ!
ということなのでしょうね。
実際、年齢を重ねてただでさえいろいろしんどいのに、
想定外のことが起こってとまどっているのに、
考え方のこまめなアップデートまで要求されたら大変だ…
と思います。
自分の両親を見ていてもそうです。

なのでそこはお互いを思いやりつつ…なのですが…

ここで
「今まで、店で、こんな嫌な目に遭いました」
という
嫌なこと大全
を書き始めると書く方も読む方もしみじみと暗い気持ちになるので、
ここでは「困った人の困った話」の羅列は省略します。
ある程度は想像して頂けると思いますし、
時には実際にレストランやバーで目撃した方もいらっしゃるでしょう。

とはいえ実例がゼロだイメージしずらい方もいらつしゃるかもしれないので、
うちの店の最新事例を一件。

そろそろラストオーダーかな…という時に、多分はじめてだろうというお年寄りがいらっしゃいました。女性です。
席につくなり
「このあたりは店が何もないのね。他に何もないから来たわ。
お腹が全然空いていないから蕎麦は少しで、その分安くして。
麺は半分でいいから、半額でいいわよね」
…すみませんが、うちの店では、これはできかねます。
(これはたまにおっしゃる方がいらっしゃるのですが、ではつゆはどうするかという問題もあり、難しいのです。通常のお値段で、麺を少な目に…などは対応させて頂いております)
お好きな一品料理と半ライスではいかがでしょうか?
「そんなものが食べたくて来たわけじゃないって言っているでしょう!
大体あんたひとにドアをあけさせてどういうこと? 人影があったら駆けつけて、すぐに開けなさいよ。
そば半額で、300円でいいわよね?」
カウンターに硬貨をたたきつけます(カウンターに傷がつくし…大体300円だと半額ですらないし…)。
うーん、これは結構ひどいです。
ついさっき何かむしゃくしゃすることがあったのかもしれませんし、世代的に「女性だ」というだけでこき使われてきた人生だったから女性(である私に)に当たり散らしているのかもしれませんが…。

とりあえず冷静にカレーのハーフサイズをおすすめして、それを食べていかれました。
が、食べていらつしゃる時も、他のお客様のオーダーをとっている私に
「あんたね、目くばせしたら飛んできなさいよ。水は一口飲んだら足すもんよ!! 大体こんなもの食べたくて来たわけじゃないのよ」
とかなり大きな声でおっしゃり、他のお客様はドン引き…。
どんどん引き…

画像
とりあえず撮影しておくものですね。
今年3月、神奈川県の荒崎海岸にて

もちろんこれはかなりのレアケースです。
この時は
もしかしたら年齢的に認知症になりかけでイライラしているとか、何かの疾患の可能性もあるかも(私は医療の資格は持っていませんが、過去に医療系の記事を書かせて頂いていたのでそんなことも頭をよぎり…)
そしてお代はきちんと頂いたので普通にお見送りしました。

塩は撒きましたが。 

ちなみに問題行動がある方は、私には強く出ますが、厨房から店主が出てくると大人しくなる…ということが多いです。
このあたりは飲食店差別とともに明らかにジェンダーが絡んでいます。
女性がいると
「話しかけやすい」
「雰囲気が柔らかくていいね。和やかになるね」
と言って頂くことがありますが、
少々角度を変えると
「女の人には甘えやすいね」
「ちょっと無理が言えるね」
という側面もあり、女性スタッフはこれで嫌な目に遭っている方も多いかもしれません。

この例は女性のお年寄りですが、男性の高齢者の方が
「女性には無理や面倒を頼んでも全然OKだし、それを断るなんてもってのほか」
「女は気を利かせてナンボ」
という傾向があります(傾向…ですよ。そうでない方も多いということは強調しておきます)。

うちの店はいざとなったら厨房から夫に出て来てもらえばいいのですが(調理が忙しくて出てこられないことも多いですが)
女性で一人でまわしている方とか、本当に大変ですよね…。

すみません、長くなってしまいました。
嫌な目にあった時の対処法、そして考え方、次回に続きます。

(つづく)

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