田中岳さん(岡山大学 副学長)1

田中岳さんは、東京にいらした頃「ありまさ」の常連さんでした。
多い時は1日に2度、昼と夜にお会いすることもありました(ありがとうございます!!)。
グループで賑やかにご来店下さったり、
奥様やお友達といらしたり、
お一人でいらしたり…。

ですから「我ら茶柱探検隊」に本インタビューを掲載させていたたいた時は、記事を読んだお客様から
「えっ、この人知ってる!! 偉い先生だったの?!」
という声があちこちから聞こえました(笑)。

インタビューのきっかけは…
田中先生とはそれまでもお会計の時などにちょこちょことお話させて頂いていたのですが、
その何気ない一言がとても印象に残るというか、
クスっと笑えるのに考えさせられるというか、
物事考え方、光の当て方が独特でいらして
「この方は水面下に何かありそうな気がする。お話を伺えたらいいな」
と常々思っていました。

岡山大学に赴任されると聞き、これを逃しては…とインタビューさせていたたいた次第です。
お引越し前でとてもお忙しいにも関わらずじっくりと、途中から奥様もおいで下さり、
「田中先生の話なら俺も聞く」と店主も参加、
忘れられない時間になりました。

ちなみにコロナウィルス感染症の拡大で営業に四苦八苦していたころ
「年越し蕎麦は『密』になるから難しいですね、今年は営業できないかな…」
と言ったら
「そんなのバラけて来てもらったらいい。
地元の神社が早めに参拝に来てくれるように『幸先詣(さいさきもうで)』を呼び掛けて好評らしいから、
ありまさは『幸先そば』で行こう!!」
というアイディアを出してくださったのは田中先生です。

先生、まちの蕎麦屋のマーケティングまで考えて下さって…。
お陰様で「幸先そば」は感染に配慮しつつ、なんだか縁起もよく、とても好評でした。

☆☆☆☆☆

ありまさの近くにある東京工業大学の教授を経て、2022年春から岡山大学副学長になられた田中岳先生がご来店。
お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。

大学で散歩を教えています!? 迷うから見つかる自分らしい道

お隣
えっっ!!
副学長でいらっしゃるんですか。すごく気さくに話して下さるから…
これはこれは失礼致しました。

田中
いやいや、副学長っぽくないと言われますから。

お隣
何を教えていらっしゃるんですか?

田中
今は特に授業は持っていません。
大学を面白くする、教育改革という仕事をしています。

お隣
??

田中
もともと物書きになりたかったんですよ。でも志望した新聞社に全敗、腰掛けで入った会社も肌に合わず帰郷。
無理をして体を壊したようで、一年ほど療養。その後契約社員で就職したものの納得いかずまた辞めて…。

お隣
お酒が美味しくなってきましたよ(笑)。

田中
そこではじめてじっくり考えてみたわけです。
物書きになりたいなんて言っていたけど、特に何か書いていたわけではなかったなと。
楽しかったのは高校時代の塾バイトや大学時代の少年サッカーのコーチ。
てことは、教えたり、人が学ぶ場が好きなのかもしれない。

そうこうして京都精華大学の職員に採用されたんですよ。
ここは非常に面白い大学で、職員と教員が同じ給料。
職員も教育の責任の一端を担うと明記されていて、創立当初の頃なんかは中年の学長より高齢の庭師さんの方が高給取りだったり、普通は職員に学長選挙の選挙権は無いんですが、職員も学長選挙に投票できるし立候補もできた。

つまり、全員で大学を作っていく気風。
僕も職員の仕事をしつつスキー部の監督をして、学祭でキムチ焼きそばを焼いていました。

小さな大学で学生の数が少ないので「あいつ、最近来てねーな」とか言って、まるで大家族。

職員として学生課、入試広報課、教務課、教育推進センターと働かせてもらい、学びの場を良くする方法を考えること、大学改革は面白いな、と。
もっと勉強したくなって名古屋大学大学院に高等教育マネジメントを学びに行きました。
京都で職員をしつつ名古屋に通うのは…と悩みましたが、大学が理解してくれ、家族が協力してくれました。

お隣
紆余曲折があったけれど、道がひらけてきた!

田中
その後九州大学で働くことになりまして。教員になってもすることは同じです。学生がのびのび学べる場を耕す。
Learn how to learn
学び方を学んでもらう。

ある時、1年生の授業でグループワークをしていたところ、学生が煮詰まってしまった。
にっちもさっちもいかない。
そこで、

「散歩に行け」

と言いました。
ただし帰ってこいよ、キャンパスを出るな、課題は考え続けろって。

帰ってきたら、みんな晴れ晴れした顔をしてる。
こういう息抜きというか、ちょっとした羽目の外し方を教える(笑)。

写真・田中岳

「散歩」は何年か後にも「忘れていない」と学生に言われました。

国立大学なんて学生も教員も真面目な人ばっかりですからね。
「岳さんだからできる」
って言われますけど、ある授業ではお菓子OKにしました。
その時ジュースサーバーを持ち込んで美味いジュースを絞ってた学生がいて、そういうのは出世しますわ(笑)。

お隣
楽しそうで羨ましいな。

田中
みんな真面目ないい子ばかり。
たぶんいい家庭で育って、いい大学に入って、いい就職を目指してる。
屋上でたばこ吸ったり、こっそり酒飲んだり、線路に硬貨置いたこともないでしょう。

でも悩みはある。
大学にいるうち、だんだん親の期待と自分の興味が違ってくる。
過去に自分が描いたキャリアプランがしっくりこなくなる。
当然ですよ。
いろいろな人と出会って、自分の才能に絶望したり、前には見向きもしなかったものに興味が出てくる、そんなもんですから。

アフリカのことわざに
「早く行くなら一人で行け。遠くに行くなら仲間と行け」
一人だと知っている場所にしか行けない、だけど仲間となら思いがけないところに行ける。
大学はそういう出会いがあるところだし、偶然何かが生まれるところ。
要は、偶然を必然に変える力が必要なんです。

でも当初の計画や周囲の期待にこだわると、大事な偶然を見過ごす。
自身の成長を自身が止め、アップデートしない。

お隣
そしてしっくりこない道に進んでしまう…。

田中
計画外のことに目を背けるのは、失敗が怖いからでしょう。
失敗しないのかが、いい子かなあ?
挫折もせずに大学に進むのがいいのかなあ?

人生は山あり谷ありでしょう?

山はいいです。尾根は遠くから見えます。前もって準備できる受験みたいなもんです。
でも谷とか、壕(ほり)とか、ある日突然前に進めなくなることがありますよね。

お隣
まあ、そんなことだらけです(笑)。

田中
偶然を受け止め、突然の困難にもへこたれない。

そういう方がかっこいいですよね。
では実際どうするかですが…

写真・田中岳

(つづく)

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