有山佐和さん(ウェディングMC)

有山さんは「ご近所さん」です。
私達が住む町のラーメン屋さんで出会い、お話させて頂くうちにありまさにもご来店下さいました。
あまりにも近くにお住まいなので、お互いに野菜や果物が余ると「よろしければ~」と持って行ったりする、そんな仲(笑)。

有山さんは地元の商店街のアナウンスを聞いていても、
「あ、ここは語尾を下げてはいけないのに…」と気になったりするそうで、
声を使う方は耳もいいのだな! と感心します。
MCは言葉を編み出すという点ではライターと近いようにも思えるのですが、有山さんは言葉の「音質」にとても繊細で、
その感性に触れるたび言葉というものの多面的な面白さ、MCというお仕事の素晴らしさをしみじみと感じています。

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結婚式の司会を中心に、ラジオやテレビのMC、司会者養成に尽力される有山佐和さんがご来店。
お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。

結婚式は台本のない舞台、司会は黒子にして俳優、そして演出家

お隣
結婚式の司会にプロがいるんですか?! いや失礼、その…

有山
分かります(笑)。言葉は悪いですけど、しゃべる仕事の人が片手間でやるもの、それが結婚式の司会だと思われがちなので。
私はラジオやテレビのMCもやらせて頂いていますが、何よりも結婚式の司会のプロで、同時に司会者の養成にも携わっています。結婚式の司会は決して楽ではないですが、本当に奥が深くて面白い仕事なので、いろいろな方に興味を持ってもらいたいのですが…。
ところで司会の勉強にはどのくらいの年月がかかると思われますか?

お隣
半年くらい?

有山
マイクを持ってしゃべるまでに最低1年かかります。ここがスタートラインで、そこから最低3年は頑張ってほしい。

お隣
けっこうかかるんですね!

有山
デビューして3年は大変です。ウェディングは「こんな式にしたい」「演出はああやって」と個別のリクエストが多いです。それぞれにまったく異なる要望があるので、お気持ちを汲み取って丁寧に応えていかなくてはいけません。一生に一度のことですから失敗は許されないのもプレッシャーです。

それに、そもそも台本が無いんです。渡されるのはA4の用紙1枚。そこに「1入場  2開演 3主賓挨拶…」と書いてあるだけで、あとは臨機応変に進行しなくてはいけない。
ですから始めは誰もが「無理!」と思います。

お隣
その場で対応って…即興すぎますよ!

有山
事前の打ち合わせが1時間ほどあって、そこで人間関係や肩書などを整理します。
ご家族やゲストとも楽しい思い出はもちろんですが、家族の込み入った事情、例えばご両親が実は離婚している、親戚同士が不仲など全て包み隠さず伺います。
司会はそれらすべてを含んだうえで、式がつつがなく進むようにしなくてはいけません。

また客席には赤ちゃんからお年寄りまでいろいろな年齢層の方がいらして、不測の事態が必ずといっていいほど起こります。おめでたい席なので楽しい空気をキープしつつ、様々なトラブルに対処しないといけません。同時に非常に緊張している新郎新婦の体調への心配りも必要です。

そういった細部へ意識を向けるのと同時に、2時間ほどの式を楽しく過ごして頂くためには、全体の時間配分、緩急をつけることにも気を付けます。
結婚式は1本の映画であり、唯一無二のドラマ。しっかり楽しんで頂くためにも、ここは集中して頂くシリアスモード、ここはリラックスして頂く宴会モード…など感情の波を意識した進行をします。大局観も必要なんです。

お隣
表方にして裏方、思った以上にハードですね。

有山
ですから、養成していても3年後に残るのは2,3割です。でもそこを抜けると「話すってこういうことかも…」という感触がつかめるようになり、5~10年経つと自分らしさを出せるようになります。
司会者自身が結婚したり、出産したり、また自分の子供が結婚するようになると、話す内容も変わってきます。人柄が出る仕事ですから、長く続ければ続けるほど深まるし、やりがいがあります。

お隣
はじめから結婚式の司会志望だったのですか?

有山
私自身は大学で教育を勉強していて、当初は子どものカウンセラーになろうと思っていました。でも途中で向いていないなと思って、いったんは普通の企業に就職しました。ただやはりしゃべりたい、表現したいという気持ちがあって、少しずつしゃべる仕事をはじめて、一時期は週5は会社、土日は司会(笑)。

でもこれでは続かない…と思っていたときに今の事務所から本気でしゃべる仕事をしてみませんか? と言って頂いて、現在は司会、MC、そして教育に当たっています。

あ、今まで「司会」と「MC」を同じような意味で使ってしまいましたが、厳密に言うと「司会」は細かい部分まで指定のある台本に基づいて進行する人、「MC」は大筋は決まっているけれどその時々に臨機応変の対応が求められる人のことです。現実的にはその両方の能力が必要になることが多いですね。

お隣
人と向き合うお仕事ですから、カウンセラーの勉強も活かされていますね。

有山
はい、いろいろな勉強や能力が役に立つ仕事です。しゃべる仕事に就きたいけれど、何をしゃべったらいいのか分からない…という方もいらっしゃいますが、試行錯誤していくうちに適性が見えてきます。

結婚式の司会の場合、新郎新婦やそのご家族以外にも、会場のスタッフとの連携が必要ですからチームプレイが得意で華やかなことが好きな人に向いています。そういうのがちょっと苦手で、他人よりは自分と向き合う方が性に合っているならナレーションとか朗読とか。
とにかく場数を踏んで、自分が面白いと思うことを探してほしいです。

ある結婚式の司会をしたときのことです。
新婦は看護師、お父様は医師でした。お父様はご病気になられ、残念ながら式の前に亡くなられたのですが、ビデオメッセージを残されていた。

式で上映させて頂いたのですが、「生きるとは? 死ぬとは? 人を大切にするとは?」そこにいた全員の心が揺さぶられるような感動的な時間になりました。
でも、感動しつつも、実は私は途方に暮れていたんです。

こんな素晴らしい内容を、一体どうまとめたらいいんだろう…?
どうクロージングしたらいいんだろう?

結局、私は
「お父様、ありがとうございました」
としか言えませんでした。

後日新婦さんがわざわざ事務所まで来てくださいました。
「あの時、実は有山さんが何と仰ったのか、実はよく聞き取れませんでした。でも有山さんの言葉が、その響きが、私の気持ちをすっと押してくれたんです」

声は言葉以上のものを、伝えられるのかもしれません。

(おわり・収録2021冬)

有山佐和さん プロフィール

ウェディングMCとしてラグジュアリーホテルをはじめ多くの会場で活躍。年間100組以上の披露宴に携わると同時に、テレビ、ラジオ(InterFM)にも出演。結婚式の感動を手紙で伝える千葉テレビ「結婚式心の手紙」は現在YouTube「OFUKU&S.Tチャンネル」にて配信中。

OFUKU&S.Tチャンネル
https://www.youtube.com/@user-zg3my3fe5n

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