蕎麦屋の女将さんが考えたあまり普遍的でない接客の極意 ⑥お話を伺う・上級

いよいよ上級編です。
ここまで読んで頂いた方はうすうす気づいていらっしゃるとは思いますが、
飲食店でのコミュニケーションは「初級」「中級」を実践するだけでも十分ですし、冒頭でも申し上げたように
「我々の仕事はオーダーを頂き、それをきちんとお出しする。That’s all」
だといえばその通りなので、
あまり会話をしない
というのも全然アリだと思います。

現にそういう姿勢のお店はたくさんありますし、そういうお店で繁盛しているところもたくさんあります。
話さない、というのは深く仲良くはなりませんが深く傷つけあうこともなく(結婚しなければ離婚しません、大好きにならなければ大嫌いにはならない)、
それはそれでメリットが大きいです。
人間「つかず離れず」というのは結構難しいので、だったらいっそ「一切つかない」、つまり話さない。

好きな飲食店では、
あえて店主とは話さない…
というお客様もいらっしゃいます。

そして、コミュニケーションが得意な方だと逆に失念しがちなのですが、
「実は、そんなにしゃべりたくないんです」
というお客様も少なからず、いらっしゃいます。
静かに呑んで、食べて、周囲の賑わいを楽しんで…
その時間をじっくり味わうというタイプです。
スマホを見ているわけでもなく一見して手持無沙汰に見えますが(ご覧になっていることもありますが)、
特にしゃべりかけてほしいわけではありません。

何もお話しないままに、にこにことお会計。
そして、またご来店下さいます。

もちろん「しゃべりかけてほしい…」方もいらして、明らかにこちらを頻繁に見ているけれど、どうやらオーダーをとってほしいわけではないようだという場合は、
「ご注文でいらっしゃいますか」
「あ、いや…」
「(私は)ぼんやりした人間だから、何かあったらおっしゃって下さいね。今日は暑いですけど、クーラーの設定温度は大丈夫かしら…」
などと雑談に持ち込むという手はあります。

とはいえ、お客様も大の大人ですし、「話しかけた方がいいかも…」という判断が間違っている場合もありますし(エスパーではないので)、
私は基本は
話しかけられたら、にこやかにお返事する
でいいと思っています。

さて
コミュニケーションが上手な飲食店の方、そして佇まいの素敵な客様から私が学んだ上級のテクニック、達人のアティテュード、ですが
それは…
どんな人にも興味を持つ
です。

話すときも、話さないときも
とにかく目の前にこの方がいらっしゃるというのは何かの縁と捉え、それを大事にする。
有難いな、と感謝する。
口には出さなくても、会えて良かったと感じていて、この瞬間を慈しんでいる…
ということをなんとなく、なんとなく醸し出す(奥ゆかしいですね。和風)。

この9年間でたくさんの方を観察した結果、
私は今のところこの「興味」こそが
奥義
ではないかと睨んでいます。

興味を持っているということは、いつでも
お話伺いますよ♪
という心持ちでいることで、そしてそういう心持だということをなんとなく相手に伝えているのです。

こういう達人の方々は、しゃべってもしゃべらなくても、ひとに
この人は私を大切に思ってくれている
尊重されている

と思わせることが出来ます。

ですからこの「興味を持つ」姿勢を保つことが出来れば、コミュニケーションの些末な失敗は失敗ですらありません。
何かカチンとくることをしても
「とはいえ、この人は私を気にかけてくれるんだし…」
と思われ、失敗がなくなります。

そして場合によっては…ですが
一度もお話したことがないけれど、
そしてこれからもお話しないような気がするけれど、
なんか仲良し(⌒∇⌒)
という不思議に心地よい関係さえ生まれることがあります。

もちろん達人の技なので、私はできません。
ライター時代からインタビューが大好きなので人に対する興味はある方だと思いますが、いつでも、誰でもではありませんし…。
ですから
この境地を目指して一歩一歩歩いている、
毎日毎回、ちょっとでも向上したいな…と願いつつ暖簾を上げています。

ここで
「しかしですね相手に興味を持つ、と言われても、
マスターでもない私達は具体的にはどうしたらいいのか?」 
という疑問が湧いてくるわけですが、
まずは騙されたと思って、目の前の方を観察してみることがおススメです。
別に話さなくていいです。
この時のコツとして、
好意的に観察する
という癖をつけておくといいかもしれません。

あ~、汗かいてるな、服もヨレヨレじゃん。スマホにヒビ入ってるよ、買い替えないのかな、無精だな~

ではなく、

すごい汗、こんな時間まで働いていたのかな? 暑かったのに大変だな。頑張り屋なんだなあ…

みたいな感じです。
驚くことにこれだけでも随分雰囲気が柔らかくなりますし、話しかけやすくもなります。

そしてもし会話が発生したら、ですが、
(無理のない範囲で)礼儀正しく
(無理のない範囲で)親切に
これを守ればOKです。
あとは初級・中級の技、何より「機嫌よくする」も大きな力になります。

そしてこれだけで
「ご来店誠にありがとうございます」
「(お話してもしなくても)今日はここへ来て下さって嬉しいです」
「あなたのことが大切で、興味があります」
ということが、とても分かりやすく、しかも押しつけがましくなく伝わります。

あとは飲食店として当然のこと、
お客様のご所望のお食事を丁寧に、心をこめてお出ししましょう。

というわけで「お話を伺う」はいったん終了です。
短くない文章にお付き合い頂き、どうもありがとうございました。

次回は「質問されたら? 個人情報の扱いについてなど」です。

(つづく)

※見出し写真は「同じ方向を見ていなくても、しゃべらなくても仲良し♪」の図です。
初級から登場している2匹ですが、少しずつ関係が熟れてきているのです。

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