蕎麦屋の女将さんが考えたあまり普遍的でない接客の極意 ⑨嫌な目にあったら? 中

前回は実例を交えつつ
「飲食店スタッフが体験しがちな嫌なこと」
を思い出してみました(もやもやしましたね~・笑)。

今回はこれらへの対処法、そして考え方についてです。
私が、一見して対価に見合わない、嫌な目に遭う飲食業を続ける理由、
「嫌な目」の持つすごいメリットについても書こうと思います。

ところで、今まであえて
「嫌な目」
という表現を使ってきましたが、この「嫌な目」のうち、すべてとは言いませんが悪質なものは確実に
ハラスメント
に当たります。
昨今は
カスタマー ハラスメント
という言葉もよく聞くようになりました。
(ハラスメントとは、ざっくり言うと
人を困らせること、いやがらせ。いじめなどの迷惑行為。
厚生労働省が職場のハラスメントについて定義していて、これも参考になります⇩
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの 職場内の優位性を背景に、 業務の適正な範囲を超えて、 精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為)

ハラスメントについては法律も制定されており、対処法もあちこちで書かれているので、ここでは飲食店の接客について、要点のみを考えたいと思います。

まずどんなに
「うーーむ、ちょっと、いやかなり問題があるのでは…」
という人物に対しても、飲食店スタッフは(特にホール担当は)、
常に礼儀正しく平常心で、過剰に親切にする必要はありませんがホスピタリティは備えている…そんなスタンスでいるといいと思います。
要は「いつも通り」がベストです。
この姿勢を保ちつつ、必要な時は冷静かつハッキリと店のスタンスをお伝えします。
前回の例ですと、ご来店に感謝しつつも
「当店は麺を半分にしても、お代を半額にはできません」
と和やかかつキッパリ伝える。
ここで
「 チェッ(-。 -; ) なら帰る」
とおっしゃるならそれはそれで仕方ないです。
この時は別メニューにすることでなんとかなりましたが(それでもお客様の心の海は大荒れのようでしたが…)、大概の場合、もともと不機嫌な方はすぐに凪にはなりません。

人によってはある程度冷静にお話しても落ち着かず、
帰るわけでもなく居座り、
注文もしたりしなかったりのまま次々と無理難題をふっかけてきたりします。
「注文に迷ってるんだよ。まだ決まらないから閉店時間を遅らせろ」
「ニシン蕎麦が無いなんて蕎麦屋じゃないな。今からニシン買いに行け」
「遠くから来てやったんだから駐車料金はお宅で出せ」
「隣に座って俺と酒を飲め」
そして大声で騒ぐ、時にはお皿を割る…
などなど(これらは当店の事例ではありませんが、いろいろな飲食店経営者から聞いた話です)。
これはもう飲食をしに来たのではなく、駄々をこねに、暴れに、いちゃもんをつけに来たようなものですね。

こういうときはビックリしたり怒ったりする前に、速やかに
証拠を残しましょう
録音・録画・写真撮影・目撃者など証人の確保…などです。
複数あるとより良いです。
暴力や器物破損があれば、この時点で警察に通報してもいいと思います。

※ハラスメントの中には、
体を触られるけれどその場面を撮影できない…(´;ω;`)ウッ…
などもあり、その時は日時、状況、感想を書いた日記、手書きメモなどを残しておきます。これは法的に証拠能力がありますし、たとえばその場面を目撃した人がいたりすると信憑性が高まります。
来店の度に触られるなど回数が頻繁な時も、連続性のある継続した記録を残しておくようにします。

証拠の確保は、できたら被害にあった店員さん以外のスタッフが動いてくれるといいのですが、現実的には難しい時がありますよね。
自分がロックオンされていたので、近くにいたお客様に小声で
「録音お願いできますか?」
と頼んだという話も聞いたことがあります。

「上を出せ!!」
と言われたら、(自分が上司なら別ですが)上に出て来てもらいます。
この時も、証拠があると話が早いです。上司が目撃していなくても音声等残っているとスタッフの味方になりやすいです。
ただ、この時点でも録音等は止めない、継続していてください。

そして上司がその問題人物と話し合ったり(話し合う余地があれば…ですが)、厳重注意するなり出禁にするなり、通報するなり、ともに警察に行くなり、適切に処理します。

と、ここまでは、ハラスメント判定が明らかに黒、真っ黒の場合。
でも飲食店の問題の多くは判定がグレーゾーンで、
通報するほどではないけれど、でもすごく困る…ですよね。
そんな時どうするかですが…。

私は、いつも通り機嫌よく、礼儀正しく、親切に接して、
それでもお客様が「何かが気に障って当たり散らす」場合は、

その人の問題は、その人にしか解決できない

とつぶやきます。
これは前回出演のおばあちゃんの心が荒れているのは、おばあちゃん本人にしかなだめられない…ということです。

彼女は私の何かがカチンときたのかもしれません。それであのような言動になったのかも。
でも、あの状況で私は何か他のことが出来たでしょうか?(゜-゜)?
大してなかったはずです。

そしてもちろん、私の接客とは全く関係ないことで、彼女がイライラしていた可能性も大いにあります(というか、多分これ…)。
この時も私に出来ることはありません。

ということは、彼女の不機嫌について、私にはどうしようもない(③お客様が不機嫌? 参照)。

アドラー心理学では「課題の分離」という言い方をするそうですが、つまりここで表出というか噴出しているのは
彼女の問題であって私の問題ではない
だから、気にしずぎる必要はないです。

「ドアを開けなかった」「水を注ぐのが遅い」
とこちらのミス? を指摘していますが、これらはそこまで強く叱責されるほどのことではありません。
ドアは皆さんご自分で開け閉めして頂いていますし、お水はある程度減ったら注ぎ足すものです。
もちろんスタッフ側に手落ちがある場合もあり、その場合は申し訳なく思い、心からお詫びして速やかに対処します。
ですが、
そのミスに対して大声を出したり、ものに当たるというのは、
やりすぎです。
いくら腹が立ったとしても
「普通に指摘すればいいのでは?」
ということです。

またお客様にもいろいろと事情はあると思いますが、
スタッフだって長時間立ちっぱなしとか、体調不良とか、実際はいろいろな事情があるものです。
仕事ですから店側は個人の事情は申し上げませんが、自分を責めてしまうタイプの方は「考えみれば、私だって頑張ってる!」と自分を応援してくれる、有能な脳内弁護士を雇っておきましょう。

一方で「お客様連絡帳」という小説の中でも書きましたが、
うちで問題行動を起こす人は、大概他所(よそ)でも問題視されています。
つまりこういう行為は、明らかに世間を狭くするし、損をしているのは自分自身。
だから店側は「罰を与えねば~」なんて思う必要もないです。
罰はくだり済、のことが多いからです(まあ自分も別の分野である意味の『罰』はあたっているかも…なんて思うことはありますが、長くなるのでここでは端折ります)。

というわけで
「おばあちゃんはカチンときた(もしかしたら、私が嫌いな嫁に似てたかな~)。私もカチンときた」
これでトントン。
カレーの代金は払ってくれたし。
このおばあちゃんの場合たまたまこの駅に用事があっただけでお住まいは遠くのようでしたし、もうお会いすることもないでしょう。
対応終了、です。

もちろん問題行動が他のお客様の気持ちをあまりにも害する場合は
「その場で『出禁』発令」
ということもありますが、これは他のお客様の様子次第でもあります。
この時は顔なじみの懐が深い方が多く、そこに少々甘えてしまったかもしれません…。

さて、ここまで読んで
「飲食店の店員って、割に合わないなあ…」
と思う方もいらっしゃるでしょう。
そうなんです。
ある意味で本当に弱い立場の一つだと思います。
ですから「この仕事だけは避けておこう」というのも、人生の戦略の一つだと思います。

でも、一方で、この仕事は見ようによってはかなりの報酬、対価があるのも事実です。
ついつい辛い出来事に目が行きますが、素敵なことも沢山あります。

すみません、またまた長くなったので、これについては次回書きますね。

(つづく)

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