原朋直さん(ジャズ トランぺッター)後日談その1「相談される人生」

フリーマガジン「我ら茶柱探検隊」に掲載された原朋直さんのインタビューは、大変反響がありました。
読者からの質問も寄せられましたので、それらをもとに改めて追加インタビューさせて頂きましたのが、
この「後日談」です。

どうしてトランペットが好きなのに大学で福祉を学んだのか?
ものづくりに常につきまとう「批判」とどう向き合うのか?
食べていくのが難しい音楽を学ぶ学生さんへのアドバイスは?
そして、
大人が心から愉快に生きるコツとは?

などなどについて、原さんはどうお答えになるのか…?
ありまさの店主も料理の仕込みをしつつ参戦。
定休日のカウンターで、お話は広く深く、心地よい音楽のように広がっていきます。
その1から4まで、どうぞごゆっくりお楽しみください♪
※本編がまだの方はこちらからどうぞ
https://sobayanookami.com/interview/2023/03/15/363

☆☆☆☆☆

女将
お忙しいところすみません。読者の方から、うちのお客様ですが、御質問がありまして…


今あんまり忙しくないの。学校は春休みだし。アルバムの収録も終わったし。あ、コーヒー頂きます。

2023.07.12発売のニューアルバム☝
Tomonao Hara Group

女将
どうぞどうぞ…。
先日のインタビューの中で、愛知県の日本福祉大学に進まれて、養護学校の先生になるつもりだったと仰っていました。
結局恩師のアドバイスもあってミュージシャンの道に進まれるわけですが、どうして養護学校の先生に?! 
という声がありまして。
音楽の先生じゃないんですね?


ああ、それ…あの、小中学校に特殊学級がありますよね。
僕の行っていた学校はその子達が給食や体育、遠足とか一緒にやるんだけど、僕は差別とかしなかったのね。
知的障害者の子とかもいたんだけど、普通に平べったく(平等に)付き合っていたというか。

で、その様子を見ていたのか、その子達が僕のことを好きって言ったのか、その両方かもしれないけど、お世話係みたいなことをずっとやっていたの。
もちろん特殊学級の先生も来るんだけど、そのヘルプというか。
まあ自然にやっていたんだけど、しんどいこともあった。

中学の時も、特殊学級の男の子、Kくんが僕の事大好きになってしまって(笑)、「お前あっち行け!」なんて言ってもつきまとうの。
先生からも「Kが原のこと大好きだって言ってたぞ、お前偉いな~」なんて言われて。
そういう経験があって、障害者の人の割と近めの位置にいたのね、精神的に。

大学を選ぶ時、これはこの前も言ったけどトランペットを吹きたいだけでテキトーだったからどうしよう? って困って。
頭にあったのはトランペットを吹けることと関東脱出、それだけ。

そうしたら母親が僕に「福祉がいいんじゃないか?」と吹き込んだ。
家族や親戚に看護師や保育士がたくさんいて、そういう仕事に関わる人が多い家系なのかもね。
だからポリシーは特に無かったんだけど(笑)、学費も安いっていうし、あ、それでいいやって。

大した受験勉強もしなくて、いちおう体裁を整えるために明治学院と東洋を受けて、どっちも鉛筆転がしてた。
で、合格発表は見に行かない。
「発表見に行かないの?」
って言われたけど、「受かるわけがない」とか「受かっても仕方ない」とか言ってた(笑)。
親には「落ちた」って言ったの。

とにかく関東を脱出したいから第一志望が愛知の日本福祉大で、あと仙台の大学も考えたけど、日本福祉大が受かったから。

考えてみれば高校もね、僕は丙午(ひのえうま)で人口が少ない年で、偶然2ランクぐらい上のところに受かったの。
早稲田とか慶應に行く人もいるような学校で、まぐれで受かったからいつも成績がひどくて、ビリから数えた方が早い。
あんまりひどいから中学に成績表持って行けって言われたのね。

持っていったら先生にゲラゲラ笑われて
「無理して入ったからな~」
だって。

母親からは成績が上がらないなら吹奏楽辞めろって言われたけど
「成績は上がらない。吹奏楽は辞めない」
ってきっぱり言って(笑)、トランペットは吹き続けた。
で、本当は卒業できないくらいひどい成績だったけど、大学に受かったから、お目こぼしというか…。

日本福祉大は、ここだけはちょっと受験勉強っていうか、赤本読んだの。

僕は世界史をとっていたんだけど、直前に過去問を少し解いたのね。
インドの歴史、ムガール帝国とか。
そうしたらそれそのまんま、まったく同じ問題が出たんだよね。

女将
まったく同じ!! って、出す方も出す方ですよね(笑)。


当時はね~。で福祉大に行ってみたら、偏差値のすごい高い人からすごい低い人までどっちもいる、変わった学校だった(笑)。

バブルの最盛期に福祉をやりたいって、燃えるような情熱を持っている人もいるんだよね。
僕は自分について検証も考察もせず、テキトーに入学して、大学でまずやったのはタバコ。
吸いたかったからすっごい大きな灰皿買って吸いまくってた(笑)。

ライター、ジッポも好きだったなあ…。
タバコは今はやめたけど、当時はバカみたいに吸ってた。

で、福祉の仕事は養護学校の先生、カウンセラー、作業所とか施設で働く人とかあるんだけど、
養護学校の先生なら自分も成長できるし世間体もいいし…って考えて
「養護学校の先生になる」
って。

でも養護学校の先生って、小・中・高どれかの一般教員免許を取って、その後実習があって、
僕は中・高の免許は取ったんだけど、養護学校の実習の時に向井滋春さん(トロンボーン)のツアーが入って、そっちをとっちゃった。
だから養護学校の免許は持ってないの。

でも大学に行ったのは無駄じゃなかったと思う。
社会福祉士っていう仕事が国家資格になったのが僕が大学3年の時で、日本の福祉の仕事って遅れていたというか、当時は全然確立されていなかったのね。
それでもまわりの真面目な人達は、恩師の柴田嘉彦先生もそうだけど、志があって、世間的な評価とは関係なくやるべきことをやるっていうか…。

そういう目立たないけど立派な人たちがいるんだよね。
それを知ったのは、すごく大きかったと思う。

女将
大学で見分は広がったけれど、とはいえ忙しくて目標だった資格も取れず、結局トランペット一筋というか、トランペット以外はけっこうテキトーになってしまった?


いや、あの頃はミュージシャンとしてもテキトーだったかも。
よく
「みんながなりたくてもなれないトランぺッターになれたんだから、まじめにやれ」
って言われたなあ。

大学でライブやツアーに参加していた時、高校の先輩が心配して
「これからどうするんだ?!」
とか
「続けられるのか?」
とか言うから
「なんとかなりそうですよ~、収入もちょっとあるし…」
って言ったら

「やるんだった真剣に、死ぬ気でやれよ!!」

って言われて、その時はなんで?って思ったけど、面倒だから「は~い」って言っといた(笑)。

僕は、他人がいろいろ言ってくるのは基本的に面倒だなあって思うんだけど、
その人たちはね、自分に言ってるんだと思うから腹は立たないの。
その人は「真剣に、死ぬ気でやれ」って自分に言ってるの。

だから僕にはあんまり響かない(笑)。

だけど面倒だから言い返さないし、基本ははいはいって聞いちゃうかな~。
まあとにかく、いちおう話は聞く。
だからいろいろ言われるっていうのもあるのかもしれないけど。

女将
原さんはミュージシャンですけど、ケアワーカーの素質がありますよね。


そう、素質はあるよね。とにかくひとの話を聞いてる。
若いころも好きな女の子に相談されたりしたなあ。
僕の事かと思うと、別の男性が好きだって内容で、がっかりしたり。
あれは「おもしろクマさん」に相談する感じだったのかなあ(悲)。

今もね大学ですごい沢山相談が来るの。
僕は否定も肯定もしないし、基本は「うん、うん」ってただ聞いてるだけ。
答えを押し付けない。
まあ、いい加減よ。

「就職したくないけど、親がうるさくて。どうしたらいいですか?」
とか言うから、この前のインタビューでも言ったけど、
「あ、嘘言えばいいんだよ。後で就職する、とか口だけで…」
とかね。聞かれたらそんな答えだし。

でもみんな
「ホッとしました!」
って笑顔になるから、まあいいか(笑)。

みんなひとのことに口を出しすぎなんだよね。

学生だって大人でしょ。
大の大人が考えた末に「就職したくない」って言ってるのに無理にやらせようとする人がいたら、
それが親でも、へらへら笑って「がんばりま~す」とか言ってりゃいいの。

もちろん就職したい人は真剣に応援するよ。
就職してもしなくても、社会に出たらどうせいろいろあるの。
だから親とか先生じゃなくて、自分で選んで決めるのが大事。

あとね進路を選ぶ理由、動機というの?
明確でなくていいと思う。

「なんとなくやりたい」で何が悪いの?
やりたいことやその理由をはっきりしろって迫る人がいるけど、そんなの真に受けちゃダメ(笑)。

ミュージシャンでも
「お前はジャズがやりたいのか、フュージョンなのか、はっきりしろ」
って言うのがたまにいるけど、
「そんなの知るか、死ねっ!」
って思うけど(笑)、
それは口には出さず、ああ、これもこの人が自分に言ってるんだな~って思う。
「俺はどうしたらいいんだ?! はっきりしろよ(俺よ)」
みたいな感じ?

自分のやるべきことがはっきりしていて、そこに夢中になってる人は他人に干渉しないから。
だからいろいろ言ってくる人には、「ああ、はーい」とか言ってへらへらしてればいいの。

この前会った卒業生が
「原先生の教えで一番心に残っているのはYES AND NOです」
って言ってて、
「ああ、はい……いや~」
とかね、これが便利なの。結局よく分かんないでしょ(笑)。面倒なのはこうやって受け流すの。
で、勝手にやりたいことをする。

店主
この前「音大を出ても食べていけない」って動画が話題になっていました。
声楽を学んだんだけど、週5で電話オペレーターをしないと食べていけないって…。
https://youtu.be/YmHTCo-s9ww


それは見てないけど…。

あのね、芸術は金を生み出さないですよ。
出資してくれる人を探すとか、副業をするとか、そういうのが必要な場合もある。

僕は副業は経験値が上がっていいと思うけどね。
芸術のどのジャンルでも「その道一筋じゃなきゃ」みたいな人っているでしょう。
ミュージシャンは音楽だけで食え。教師をするのも邪道だ。
画家は絵で、作家は小説で、棋士は将棋だけで食うべきだって。

でも奥さんを働かせたりはしてて、家族に食わしてもらうのはOKなの? よく分かんないよね。
僕はこの道一筋とか、ほんと意味不明だと思う。何それ?

確かに大学の仕事ははストレスがたまるし、正直バカみたいな事務処理とかね、今は中間管理職だから大変。
だけどいろいろ考えるきっかけになるし、出会いもあるし、実際すごくためになるよね。

その人は電話のオペレーターしてるの?
だったらその仕事でお金以外のものを沢山得ているはずなの。
それを吸収しつつ、本当に声楽が好きなら、週1だろうと月1だろうと、はじめは無料だろうと、とにかく続けられる。
実際そうやってる人も多いよね。

こう言うと原さんはラッキーだったからと言われるし、まあそれはそうだけど、
僕は福祉の道に進んだ可能性も十分あって、その場合は養護学校の先生をやっていたと思う。
先生をしつつトランペットを吹いて、地元のジャムセッションとか行って
「あいつアマチュアだけどうめーな」
なんて言われるの。

で、いい気になって他人の指導して嫌がられたり(笑)。
本業、副業とかいうけど、今は名刺何枚も持ってる人多いよね。僕も2枚持ってる。そういう時代でしょ?

女将
パラレルワーカーが増えました。


そうそう。
大学の仕事も、面倒だけど面白い。ある意味ケアワークというか、僕は優しいし(笑)おせっかいだから。

僕もね、怒るときは半端ないけど、 クソミソに言ったやつも、後でフォローしたりして…。
とにかく自分で決めて、自分で生きて行けるようになってほしいから。だから相談にも乗るの。

女将
まさにカウンセリングですね。若者独特の深い悩みもあるでしょうし、大変ではないですか?


そうね、追いつめられる子はたくさんいる。対処法もそれぞれ違うし、僕の精神的な消耗はすごい。
本当に、大学の僕の部屋に行列ができるくらい悩み相談の人が来るから…
というのは得意の嘘、超大袈裟です(笑)。

本音を言えばこういうことは30代くらいの先生にタッチして、僕は優しいおじいちゃんみたいに
「大丈夫~?」
「頑張ってね~」
とだけ言っていたいんだけどね(笑)。

でも本当にしんどい子、ぎりぎりの感じの子には
「24時間、いつでも電話かけていいぞ。深夜でも構わない。必ず(電話に)出るから」
って言って、そうしたらすごく落ち着いたりしたなあ。

誰かがそこにいるって実感できると、人間ってすごい勢いで立ち直ったりもするの。

もちろん学校って悩みの深い人もいれば、ものすごいバカもいて(笑)
粋がって
「俺ってすごいんだぜ、だから課題なんてやらないぜ!」
みたいのがいると

「だったらやるなよ、金がもったいないから大学もやめろよ!!」

って𠮟りつけて、その後で「ごめんごめん、言い過ぎた…」って言って部屋で話聞いてフォローしたり…
まあ話もいろいろね(笑)。

河合隼雄先生が好きで昔から良く読んでるんだけど、
僕の場合は先生みたいに治療目的で話を聞くんじゃなくて、
「一刻も早く部屋から出てってくれ、俺は作曲がしたいんだよ!!」(笑)
って思ってることも多いんだけどね。

でも真剣に悩んでる人を見ると、かわいそうだな、大丈夫かなと思っちゃうのも本当でね…
だから、確かに、大変なんだよね。

河合隼雄先生の言葉に感銘を受けて作った曲「Wait, With Hope」の入ったアルバム「Color As It Is」
(Gaumy Jam Recordsの第1作目作品2015年リリース)
写真・原朋直

(その1終わり。2に続く)

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