原朋直さん(ジャズ トランぺッター)後日談その2「肩書不要論」


まあみんないろいろ悩むんだけど、まず伝えたいのは
「大事なのは肩書ではない」ってこと。

肩書不要、というか、肩書を重視するのは意味がない。
「僕はミュージシャンです」
とか
「私はアーティストです」
なんて、とっても、非常に、全然、大切ではない(笑)。

大事なのは
「こういう曲を作りたい」
「こんなアルバムを作りたい」
「ツアーはこの人とやって、こんなことを実現したい」
そんな具体的なアイディアというか、イメージ。実現したいことがあるかどうか。

僕は、世間に威張るために
「私はミュージシャンです」
っていう人の音楽なんて聴きたくない。

お蕎麦屋さんでもさ、小綺麗な店を構えて、なんかパリっとしたユニフォーム? 蕎麦職人っぽいかっこいい服着てるおじさんがいても、
「こんな蕎麦を出したい」
「味はこうしたい」
っていうアイディアが無かったら、そんな人の店に行きたい?
僕はそんな店は嫌だな~。
アイディアが無い人にお金は払いたくない。

やりたい音楽があって、そのために試行錯誤している人がミュージシャン。
そして「やりたいこと」のためにお金が必要なら、副業もいいよね。

若い時にキラキラしたい、モテたい、って思うのは、まあ仕方ないよ。
ミュージシャンになってゴールドディスクをとりたい、
コンテストで優勝して注目されたいとかね。
分からなくもない。
その欲望が牽引力というか、ガソリンにもなる。

だけど
「それが本質ではない」
ってことは言っておきたいの。

音楽は、新しいものを生み出す作業で、名声や肩書とは関係ない。
名乗りたいだけでアイディアがないなら、創作の苦しみを楽しめないなら、今すぐやめた方がいい。

あとね、よくある考え方かもしれないけど僕が「違う」と思っていることなんだけど…、
「新しいものを生み出すこと」と、
「練習してテクニックを磨き、沢山の過去の遺産を知り、マネをしてそこから学ぶこと」
とは直結していない、と僕は考えているのよね。
技術も、いろいろな芸術に触れる勉強も、大事。すごく大事(どうして大事かは後で語るね)。

だけどそういうものは、生み出す音楽の素晴らしさとは比例しない。

技術が高まっても、楽器という道具を使いこなす腕がいいだけの人、っていうのもいる。
そういう人はメロディーっぽいものは出来る、でも本当のメロディーは生み出せない。

ChatGPTとかAIに出来ることを、人間がしてもしょうがないよ。
今は機械でバッハ風、チャーリー・パーカー風…何でもできる。
譜面ソフトとか、ジャズのコードを入力するとコンピューターが作曲してくれるし。

AIは遠藤周作の文章を学習して、遠藤周作スタイルの文章は書けるかもね。でも心は打たないよ。
まあ「上手いね~」とか言われるかもしれないけど。

AIみたいなことしたがる人が多いけど、そんなの意味ないでしょ。
その人の、その人なりの、新しい歌を作らないと。

自分のスタイルは生まれちゃうものなのね。
はじめは真似したり、勉強したり、分析したり…
でもだんだん自分らしくなる。

年月をかければ洗練されてくるから、はじめは粗削りでいいと思う。
粗削りを批判する人が必ずいるけど、そこは「これからがんばります~」でかわして(笑)。

僕もはじめは変な曲だって笑われたし、今も下手だとか、おかしいって言われたりもするけど、
でも作りたいしアイディアがあるから作るんだよ。

ジャズって、時間芸術。

その場で思いつくものは多い方がいい。そういう意味でアルバムをいっぱい知ってるとか、すごく大事よ。
今はYouTubeもあるし、若いうちにいろいろな曲に触れられる。いい意味の耳年増になれる。

僕らの頃はお金持ちとか、すごいオタクとか、レコード持ってる人が身近にいなかったらジャズを聞くことすらできなかった。
だから今のテクノロジーを駆使して、合理的にどんどん勉強する、吸収するのはアリだと思う。

いろいろ知るのはいい。
でも資料集めで終わったらダメ。
これを理解してほしい。

実はこれを言うと敵だらけになっちゃうけど、いわゆるミュージシャンでも
資料集めで終わってる人、〇〇風に終始してる人なんて沢山いるんだよ。
僕はコルトレーン風ですって居直っちゃう人。
それはね、
真似っこ(笑)。

本当の意味でのcreationはしていない。

そんなの出来ないよ、っていう人がいるけど、出来ないからやるんだよ。
はじめてのことをすると
誰からも褒められないし、辛いし、怖いけど、
でも、やるんだよ。

女将
芸術系って、学校いらないですね(笑)。


そうなの、本当は
音楽を創ることは教えられない。

それに日本の音楽教育はすごく遅れてるの。〇〇風ばっかり。
無から何かを生み出す人を育ててこなかった。

でも学校が無意味だとは思っていなくて、
唯一できることはね、
僕が音楽を創っている姿を学生に見せる。
先生たちが音楽に夢中になってる姿勢を見せる。

僕は無から何かを創る。
学生も創ったり、創ろうとしている。

創作者同士で話し合う。
大学ではそれが大事だと思う。

だから学生が
「バンドはじめました。今こんな曲をやろうとしてて…。ここがうまくいかなくて…」
とかね、そういう話はフラットに(対等に)聞くの。
やりたいことがあって、そこにたどり着く方法を考える。
音楽的にも、人間的にも、お互いに課題は沢山あるから。

失敗していいし、挑戦すれば失敗するでしょ、そりゃ。

年齢を重ねても失敗するよ。
でもね、繰り返すうちに独自のものが生まれてくる。

写真・原朋直

若い人たちの職業観というか、進路の考え方もどんどん変わっていくよね。

少し前まではミュージシャンになるか、ならないかで随分葛藤していたし、決意も必要だったけど、
今はとりあえずできることをしつつ…って感じの子も多い。
できることをしつつ、自分らしさを探していく。

僕は状況が許すならそれも大事な時間だと思う。

子供がいて、食べさせないといけないとかなら別だけど、
自分一人なら何をしても栄養になるよね。

音楽を職業にはしないけど、心から音楽が好きで、ジャズが好きで、趣味にする人もいる。それもいいと思う。

食べていくことと関係なければ、音楽をすごく純粋に楽しめる。これも本質的。
若い世代は、大人が思う以上に、大人が思う何倍も、人生をよく考えてる。

むしろ大人の方が肩書で威張ったり、他人の肩書に卑屈になったり、あの人はいくら稼いでるのに…とかね
無意味なプライドで生きてる。
ホント、要らない考え方だよね。

店主
この前、旅番組を見ていたんですよね。
神奈川を歩く「あっぱれ! KANAGAWA大行進」っていう…。
そうしたら葉山にジュン葉山っていうおばさんがいて、その人の弾き語りを紹介していたんだけど、
想像の斜め上をいくというか、強いて言うと泰葉とか八神純子の感じかなあ?
シンセの音もしょぼくて、すごい昭和感でゲラゲラ笑ったんだけど、気になってYouTubeに行ってみたんですよ。

ジュン葉山 YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC9EHEOkmp0jY-WqmK4Ylfkg

彼女は技術的にはそれほど上手くないかもしれないし、
今の感性からすると古臭い感じがするかもしれないけど、僕は面白くて。
何より音楽がすごく好きで自由に作ってる感じがいいんです。
感想も書き込んじゃいましたよ。葉山さんから返事がきて、嬉しかった!


賢也さんは本当にいろいろ見てるよね~(笑)。
僕はそれ見てないけど、なんか分かる気はする。

あのね、究極は本人が心から楽しければそれでいいの。
そういう楽しさは伝染するし。

昔は「自己満足はダメ」ってよく言われたけど、あれも変な話。

僕は「自己満足の何が悪いの?」って思う。
自分が好きなものを、鋭く、繊細に突き詰めていく。
それがひとの心を打つわけだし。

いや、鋭くする必要すらないね。
とにかくやりたいようにやればいい。

他人を喜ばせたいって方向に行って、迷子になる人が沢山いるでしょ。
売れたいとか。
それって他人に人生を明け渡してるようなもんだよね。

肩書もそうよ。他人のためのもの。
だから必要悪というか、こだわらなくていいし、本質的には要らない。

賢也さんは、その人の曲がいいと思ったから書き込みしたんだよね。
作った人は喜んだでしょ?

店主
僕はメッセージを1つ送ったけど、葉山さんは2通も返してくれました(笑)。
嬉しかったんだと思います。


うちは、家では批評禁止なの。

家族は僕の音楽について
「これはすごい! ビックリした!!」
とかね、そう言わないといけないルール(笑)。
ファミリーは褒め合わないと。

女将
慶子さん(原さんのパートナー 、クラリネット・サキソフォン奏者の小森慶子さん)は、
「私が練習してると原くんがダメ出ししてくる」
って言ってましたけど…


まあ練習は作品じゃないし(笑)…つい気になっちゃうんだよね~。
でも奥さんが一生懸命やったことは励ますよ。

励ましたり、褒めたり。
人は応援しあったほうが、絶対いいものが出来る。

心にもないことは言わなくていいけど、他人のいいところを見つけて褒めるって、すごく豊かなことなの。
自分も周りも豊かになる。
だからほんと、やってみてほしいなあ。

学歴じゃなくて、肩書じゃなくて、その人が何をしているのかを見て、いいところを褒める。
あっちでもこっちでもけなし合って、マウントをとりあうバカバカしさにそろそろ気づいてもいい頃だよね?

(その2終わり。3に続く)

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