児玉智子さん(大学院生・税理士)2

児玉
働いてる男性の体、肉体労働している人に惹かれたのね。
日本の車夫をテーマにして、それからインドのカルカッタの車夫の撮影に行きました。
カルカッタでは安い宿に泊まってたら、パスポート以外全部とられたりして。
そうやって取材して写真展をやったり、写真集も出しました。

もちろんその間も税理士の仕事もしていたんだけど、事務所に優秀な人がいたので、その人に甘えたところはありますね。
肝心なところは私がやるんだけど、任せられるところは全部任せて、一時期写真に没頭していました。
モノクロにこだわっていたんだけど、それは被写体の内面を浮き立たせたいという気持ちが強かったからだと思う。

2006年新風舎
50歳の私

でもそれから二番目の父が死んで、母の生活を支えないといけなくなって、母の面倒があるから海外に撮影に行くのは無理だなと。
で、私は大学出ていないから放送大学で学位をとって、修士では当時横浜市の仕事をしていたんで、黄金町のまちづくりに関わりつつ、それを研究したわけです。

横浜は開港時に集められた遊女たちがいて、吉原みたいにお稽古事をきちんとするような感じじゃないいわゆる飯炊き女の寄せ集めなんだけど、まあ歓楽街よね。
それが現代まで続いてたけど、でも地域の人たちはなかったことにしたいの。
性産業は排除して安心安全な街にしたい。

でも規制を厳しくしてどうなったかというと、目立たない場所で商売するわけです。
街角にひっそり立っていたり。
追いやられた風俗嬢の職場環境はより悪化して、結果的に犯罪につながってしまうこともあるわけ。
風俗嬢もいろいろな人がいて、海外からの貧しい家族のために出稼ぎに来てたり、長時間は集中力が続かないけど90分のサービスならなんとかできるから風俗しか選択肢がない人とか、いろいろいる。
親から虐待されてた、精神疾患を抱えてる、シングルマザー、そういう人たちの聞き取り調査をしました。

私は税理士事務所でクラブやソープランドの顧問もしていて、性がからんだ水商売に偏見がなかったというか、貨幣経済と性の関係性に興味があって、そしてそういうところで頑張る人達の職場環境をよくしたいという思いはずっとあったのね。
それからバブルがはじけたときにクライアントの経営者が3人自殺することがあって、そこから本格的に経済合理性を疑い始めた。
そんな体験があいまって、人間の仕事とは何か、そして幸せに生きるとはどういうことか、考え続けてるんだと思う。

お隣
税理士さんであることと、現在の研究が繋がりました。

53才-いよいよ母の徘徊が酷くなり、写真の仕事を辞めるころ-
  放送大学大学院では文化人類学専攻、カンボジアの陶芸美術の継承を研究し
  ていたが、母の認知症が始まり断念し、宮古島のおばばのデイサービスの調
  査をしていたが、母の徘徊が酷くなり、論文調査地を横浜に変更した。(児玉さん記)  

児玉
それから興味が街場の性から介護での性にうつって、どうしたら介護現場で介護者と患者双方が辛い思いをせず性と向き合えるのか、介護する人もされる側も加害者にならない方法はないかなと考えはじめた。

今までも施設で女性2人、男性2人とか異性を含めた相部屋にしたら恥じらいの感情がよみがえって大人しくなるとか、試行錯誤はされてきたんです。
でも相部屋は恋愛感情が芽生えて「結婚したい」ってことになったり、三角関係がもつれたり、失恋した人が荒れたりとか、いろいろあるの。
相部屋自体が辛い人も当然いる。

そこで私が注目したのが触覚。
触ることで、つまり皮膚に刺激を与えると苦痛の感覚を軽減できるという研究があって、医療も「手当て」というように触れると「大切にされている」という感覚が起こるでしょ?

触れてもらうと自尊心が高まるし、母親といるような安心感が生まれて落ち着く。
それならまるで人間のようなラブドールを触っていたらいいんじゃないか? と調べてみたら、やはり高齢者や障碍者にニーズがある。

ドールの制作職人や販売業者、愛好家にも話を聞きにに行ったけど、健常者でも例えば長距離トラックの運転手が近くにいると安心するからって助手席にドールを座らせていたりね。
触ること、寄り添うことは本当に心の安定につながる。

人形の形でなくても、乳がんの人が使う女性の胸の模型、シリコン素材の吸い付くみたいな触感のおもちゃを触っているとなんともいえない癒しや安らぎが生まれるから、こういうものも試作しています。
お年寄りが精神的に落ち着いて自足すると、介護者も時間的精神的に余裕が生まれて楽になるからね。
もちろんこういうのがあると落ち着く一方で、人によっては逆に性欲がエスカレートする可能性もあるから、シンプルな答えはないですよ。
ただ選択肢は多いほうがいいと思うから、今はそれを見つけたい。

これからは、今の若い子は「異性とつきあうのは面倒」「VRで十分」という感性だったりするでしょ?
この世代が年をとるときはもっと淡泊な、それぞれにVRがあれば済んじゃうみたいなことになるかもしれない。
今度取材にいく施設では若い経営者が介護ロボットを導入して成果をあげているし、状況はどんどん変わるの。
まあ一人一台VRみたいな時は、すでに私は死んじゃってるだろうけど(笑)。

お隣
誰もが老いへの恐怖を抱えている時代だと思います。

児玉
老いは考えても計画しても、思った通りにいかない。そういうものよ。
私も明日死ぬかもしれないし、来年認知症かも(笑)。

今は國學院大学で博士課程にいて、東大の社会学講座に月に一回か二回お邪魔してる。
あと、弁護士とソーシャルワーカーのチームで性風俗で働く人たちに向けの無料相談を定期的に開催しているNPO法人「風テラス」にも、寄付などの形で支援者として関わっている。この時は税理士の知識が役に立っているかな。
申告書を渡されても書き方が分からない、っていうかまず読めない人がたくさんいるの。
あれって分かりづらいじゃない?
制度から零れ落ちてしまう人がどうしてもいるから、公的な支援が絶対に必要ね。

同世代の友達には
「いい年して休む間もなく動き回って」
って呆れられるけど、他人のためっていうより自分のため。
私もわけがわからなくなって若い男を触って施設を退去させられたりするかもしれないし(笑)。

風俗で働く女の子も近所にいる普通の子。
とにかくね、傷ついて途方に暮れている人たちを、いなかったことにしたくないの。

高齢者ケアについては若い研究者が「認知症になりたての人」と「親が離婚している高校生」との家庭みたいな交流の場を作っていい感じだったり、多様な世代が参加できて持続性があるプロジェクトがあちこちで育ちつつあるので、こういう優秀で志がある若者たちの邪魔をしない、応援する。
この年齢になると、そういうことも大事だと思ってます。

(おわり 収録2023冬 )

児玉智子さん(ご本人による)プロフィール

1952年 東京生まれ小学校では肥満児「ブタ」と言われ、母は私のことを「とんちゃん」と呼んでいた。
高校卒業後、昭和電線電纜、監査法人、税理士事務所に勤務
1979年 税理士試験に合格
1982年 児玉税理士事務所開業。現在はコンサル業務だけ続ける。
放送大学大学院、國學院大学院で修士課程、
現在は國學院大学院博士課程社会政策学専攻。
(児玉さん記)

児玉智子税理士事務所 HP
https://tkodama.jp/office/

風俗で働く女性に寄り添う無料相談窓口「風テラス」
https://futeras.org/

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