台湾アイデンティティー

先日ご来店下さった映画監督・酒井充子さんの作品です。
酒井さんを全然知らない頃に拝見して非常に感銘を受けた作品ですが、今回改めて見ることにしました。

台湾人だけれど過去に日本と縁があった方、
台湾国籍で日本に住む方、
台湾で生まれ日本兵として戦いながらも別の国で生きる方…
様々なお年寄りを丁寧にインタビューしていく、ドキュメンタリー映画。

ひとのお話を聞いてまとめるのが好きなインタビューマニアとしては、
好きにならずにいられない、
引き込まれるというよりは力強く巻き込まれる、
静かな迫力に満ちた90分です。

どの方のお話も、内容はもちろん、語り口、表情やしぐさ…
すべてに深い思索と、台湾独特のまろやかなユーモア、優しさが感じられます。
戦争や占領、収容所や刑務所、秘密警察による拷問…
理不尽で残酷な体験をさせられる長い時間の中でどう思索してきたのか?
一つ間違えれば死んでしまう、殺されてしまう状況でどう行動したのか?
私達はそれを体験はできないけれど、
目の前にその経験をした人がいて語っているという現実を深く噛みしめることはできるのです。

酒井さんは「撮り始める前」に時間をかけるそうで、
つまり撮影に応じて下さった方との関係を十分に温めてから、
信頼関係を育んでからカメラをまわしはじめるとのこと。

だからこそ登場する皆さんは心をえぐられるような辛い過去を話して下さり、
またごく親しい人にしか見せないだろう繊細なニュアンスの表情も見せてくれます。
撮影する側、取材する側の受け止める力、理解や洞察の深さ、被写体への尊敬は
画面にものとして映ることはありません。
ですが、酒井さんのこの姿勢は映画になんともいえない安定感をもたらしていて、
こういう視点なら、このスタイルならまた見たいという「次回作欲求」につながります(お世辞でなく、次も見たいです!)。

人生は二度生きられないけれど、映画は何回も見る事が出来て、
改めて台湾と台湾人について考えさせられました。
自分が日本人であるということも。


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