女将
学生さんにダメ出しはしないんですか?
原
教育的に必要な時はします。明らかにアドバイスが必要な場合はする。
技術的なこととか。
自分の好き嫌いじゃなく、頭ごなしじゃなく。
直す直さないは君の自由だよ、
それを採用するかどうかは自分で決めて、って。
音楽は感性の部分が多いから、これがきれい、かっこいい、ってすごく繊細な、その人独自のものなのね。
僕ももちろん好みがあるけど、それを押し付けてはいけない。
いや正直に言うと、言っちゃったことはあるんだよね、つい。
それはかっこ悪い、とか。
でも、後で本人に謝った。
それは僕の感覚だから。あと音楽的なことではなく、他人に失礼な態度をとるとかね、
その場合はすごく怒る。
頑張っている人を馬鹿にするとか。
人間的におかしいことはかなり厳しめに言う。
ただね、叱るしダメも出すけど
年齢的に僕の方が上だし、先生っていう立場だけど、
基本的に人は対等。
学生はとにかく若いし、何者でもないから、自信がないのは仕方ない。
だけど俺の言うことを聞け! 俺についてくれば大丈夫! なんて言えないよね。
僕も、誰からも褒められなくてもOK、やりたいようにやろう!
と思うまでにはすごく時間がかかった。
30代の頃ね、海外のアーティストが日本に来て、その演奏を聞いた時
自分がもう全然ダメだって分かったの。
すごい人達と一緒にツアーで回ることになったんだけど、
みんな信じられないくらいオリジナリティがある、技術的にもめちゃくちゃ上手い、
音楽以外の文化にも通じていて教養が深いし、
差別はしないし、人としてもすごい…。
信じられないよ。圧倒された。
「俺は、この人達と比べたら、話にならない」
って心から思った。
もうね、張り合う気もなくて、「すごいね~」って、仲良くなって。
僕はろくに英語もしゃべれないから、彼らも中途半端にしゃべれてなれなれしい人より居心地が良かったのかもしれない。
一緒に寿司を食べに行ったりしてた(笑)。
でもね、彼らを心からリスペクトしつつも、自分は自分だと思ってもいた。
あと、その人達を見てて
「他人に習ってもここにはたどり着けない」
ってこともよく分かった。
学校を出ればいいわけじゃない。
勉強は自分でするものなんだって、無言で教えてくれたんだと思う。
だから勉強って、本来は全然辛くないの。
ついやっちゃうものだし、やらないと面白くない。
やればやるほど人生が楽しくなる。
だからもしも今勉強が辛いなら、それはちょっと方向が違うのかもしれないね。
合っていないのかも。
どうしてもつらいなら、僕は止めちゃえばいいと思う。
好きだと石の上にも3年、いや10年でも平気。僕は100年やれる。
だから好きなことはどんどん学ぶ。
嫌なことをは早く見切りを付けるといいよ。
そうそう、あとね、
彼らは人と親しくするけれど、孤独だった。
すごく自然体で、すごく孤独。
ジミー・コブ、レジー・ワークマン、ジョン・ヒックス、ケニー・ワシントン、ナシート・ウェイツ、オーリン・エヴァンス、デュエイン・バーノ、シーラ・ジョーダン、ダスコ・ゴイコビッチ、ブライアン・リンチ(敬称略)…
まだまだ大勢いるけど…数え上げたらキリが無い。
ホントすごい人達。マイペースだけど、自分のエゴを押し付けない。
そして毎日進化してた。
僕は今月新しいアルバムのレコーディングしたじゃない?
すごく早く終わっちゃった。
何か月も前から工程表作ってね、考えてたの。
いろいろ考えるのが好きでね。
表をメンバーにも送っておいたから、みんなも理解が早くて。
ホントに早く終わって、借りてたスタジオが5時間ぐらい余っちゃって。
で、うちのメンバーは終わるとすぐ帰っちゃうの。
だらだら喋ったりしなくて、冷たいの(笑)。
それぞれ孤独。でもそれでいいと思う。
女将
若い人がすごい大人に出会う、大学はそういう場なのかもしれませんね。
原
そういう場でありたいよね。
僕は子供とか未熟な人が、若い人が、未来に希望を持てる社会をつくるのがすごく大事だと思ってる。
若い人が溌剌とした社会にしたいんだよね。
私利私欲とかしがらみとか、そういうことを人生の幹にしてる人が多いけど、
そんな大人を見ても、若い人が「こうなりたい!」とは思えないでしょ。
大人が若い世代のこときちんとを考えていて、同時に自分のやりたいことに夢中になってる、
そういう姿を見せたいよね。
だから先生達には
「夢中で音楽に取り組んで、あなたの幸せな姿を若い人に見せてやって下さい」
って言ってるの。
それが教育でしょ?
それこそが子供のためになるでしょ?
僕がはじめて曲を作ったのは大学生の時。
自分で曲を作りたい!!
ってマイルスの「so what?」 をグチャグチャにしたようなのを作った。
名古屋のラブリーではじめて演奏したなあ。
東京に移ってからも、池田あっちゃん(篤)とか、音大出身の人たちはバリバリいい曲を書きまくっていて、ああなりたいって思った。
ウィントン・マルサリスみたいになりたいとも思った。
でもね、当時の僕の曲はウィントンみたいだけど、あんまりよくなかった(笑)。
見かけは美味しそうだけど、食べるとまずい蕎麦みたい。
あれ~?!
みたいな(笑)。
時間は、かかるよ。
100曲書いて、2曲くらいしか良いのがないとか。
大坂 (昌彦)君なんかもね、彼も曲を作るのが大好きで、僕の曲にも手を入れてくれた。
今思うとすごく有難かった。
で、整いはじめたのが45歳くらいかなあ。
だんだん洗練されるから、焦らなくていい、
ということも知っておいてほしい。
そうすると続けられる。
はじめは「すごい曲を作りたい!」とかね、そういう気持ちがあれば大丈夫。
それからね、バカにする人はいつもいるの。
いろいろ無意味なことを言ってくる、暇な人が(笑)。
気にしなければいいんだけど、恐れがある人は、怖くなっちゃうんだよね。
僕も部活でトランペットを吹いていた時から下手だ下手だって言われて、
まあ下手だったと思うんだけど(笑)、
とにかくトランペットが好きだし、
他人の言うことをあまり気にしなかった。
あと、今話していて気付いたけど、「トランペットが好き、上手くなりたい!」っていう欲望がすごく強かったのかも。
だから雑音が気にならなかった。
そう批判ってね、ほとんど雑音(笑)。
僕はあんまり沢山の女性とつきあったことはないけど、昔からつきあうひとに
「あなたは太っていて、へんなしゃべり方で、顔が大きくて、なで肩で、短足なのにコンプレックスを感じないの?
なんでそんなに自信があるの?」
って言われるの。
店主
そんなこと言うなんて、ひどい…
原
でもね、自信あるんだよね~(笑)。
そういえば成績表にもね、中学、高校と
「自信過剰」
って書かれてた(笑)。
あと
「創意工夫の欠如」
興味ないことはテキトーにやってて、好きになろうって努力はしなかったからね~。
ほんと、不細工なんだけどね(笑)。
母親の遺伝で顔が左右対称じゃなくて、すごく歪なアシンメトリーだし。
目の大きさも左右で随分違う。
でもね、別にきらいじゃない。
鏡みて「いい鼻だな~」とか思うし。
そうそう首も短いけどね~(笑)。
女将
これこそが、みんなが喉から手が出るほど欲しい「自己肯定感」ではないでしょうか?
原
あ、そうか。これが自己肯定感ね(笑)。
そうね、コンプレックスはあんまりないの。自分でも不思議。
親は普通の人だと思う。
特に優れた人たちとも思えなくて、父親は巨人大好きで、ジャイアンツが負けると怒って洗濯籠投げたりしてたし(笑)、
母親は諦めが早いっていうか、よく言えばさっぱりしてるけど、あんまり粘らない。頑張らない。
僕が悪いことした時も、怒って俺を追いかけてるんだけど、追いかけてるうちにどうでもよくなって、笑っちゃって追いかけっこになっちゃうみたいな。
ただ、この前も話したけど、必要なところでは必ず褒められて、父親なんてテキトーに言っていたこともあると思うんだけど、お陰で無駄な自信がついたのかも。
褒めるのも大事だけど、そうね、あの気楽な感じ、他人や世の中に期待しない感じも大事なのかもしれない。
そのあたりは二人ともすごい苦労しているから、逆に肩の力が抜けているっていうか…
あ、電話だ。ごめんね、ちょっと出ます。もしもし~
(原さん、しばらく外へ。
そしてまた、店内に)
最近連絡つきすぎだよね。
僕は中間管理職だから、なんでも確認が来て、OK出さないといけなくて、ほんと電話がよく鳴るの。
昔はもっと不便で良かったよねえ(笑)。
早く面倒なことは若い先生に託して、僕は作曲三昧。
空いた時間は写真とか自転車、映画見まくって、書道して、
たまに大学に行くとちやほやされて…
そんな生活になりたいな~って思うんだけど、
1年で3日くらいそういう、な~んの心配もない日があるんだけど、
3日目くらいにね
「あ~、つまんねーな」
って思うんだよね(笑)。
些末なことに翻弄されて…って思う割には、些末がないとつまらない。
人間って、わがまま。
だからいろいろ文句いいながらね、
こうやって喋ったり、奥さんと話したり、そういうのが本当に楽しいの。
大人はそうやって息抜きしつつ、夢中になって働きつつ、子供に干渉しない。
ただ活き活きした人生を見せる。
それでいいんじゃないかと思うんだよね。
おわり(収録・2023年3月)