桃園空港、深夜2時。
冷たい雨が降り、東京から着てきたダウンジャケットは絶対脱ぎたくない、つまりかなり寒い夜でした。
高速バス乗り場に行くとそこは照明が落ちて薄暗く、バスに乗りはぐれた人たちがすでにあちこちのベンチで寝ています。
台湾は治安がいいので特に怖くはありませんが、寒さで心も体も縮みこみ、やれやれ…という気持ちは拭い去れません。
とりあえず荷物を下ろしたいので、空いたベンチに座りました。
疲労でぐったりした私の頭の中で走馬灯のように駆け巡るのは、出発前の夫のせりふの数々です。
旅に出るのをしぶる私に
「俺達ももう年だし、前みたいに分刻みのスケジュールはやめるよ(以前は、旅行となると彼の決めたスケジュールがぎちぎちにつまっており、分刻みで行動が決まっていました)」
「もう走らない(分刻みなので当然駅や空港の中を走ることがあります)」
「もう寒すぎることも暑すぎることもないようにする(寒すぎて高熱を出した私が、病院に担ぎ込まれたことがありました。新婚旅行でした…)」
「もう睡眠不足にはさせない(以前は削れるところは睡眠時間とばかりに…以下略)」
そして殊勝な表情でこうまとめたのです。
「君が更年期で大変なのは分かってる、絶対に無理させないから!」
…で、旅のふりだしが冬の寒い空港で盗難に怯えながら一晩明かす、と。
すごろくなら1コマ目から「1回休み」くらいの間抜けなスタートです。
怒る気力もなく、とにかく気持ちを落ち着かせるために空港内で唯一開いているセブンイレブンに行きました。
あ、オープンちゃんがいますね…。
オープンちゃんは台湾セブンイレブンの大人気キャラクター、台湾セブンの商品に沢山印刷されており、台北にはオープンちゃんグッズの専門ショップまであります。
実はこの子の初代声優はありまさの常連、俳優のMAKIさんです。
MAKIさんは日本人女性ですが中国語が堪能で、2005年から数年間このキャラクターの声を担当されていました。彼女の無邪気で可愛い声は多くの台湾人に知られていたのです…。
と解説をつぶやきつつ、台湾風の具材が入ったおにぎりとお茶を買います。
お茶は「日式(日本スタイル)」をチョイス。台湾のお茶は基本加糖してあってものすごく甘いため、私は無糖の日式一択です。
渡台も5回目ともなると、さすがに買い物で緊張することはなくなりました。
ちなみに台湾にはセブンもファミマも「ここは日本か!」と錯覚するほど沢山あります。
(↓オープンちゃん)
夫はむしゃむしゃとおにぎりを食べ、お茶を飲み
「うまいな~。しかしこのこと(夜はバスが無い)はネットになかったんだよなあ…」
といいながら、早くもベンチで横になっています。
本当に掲載されて無かったのかなあ…台湾はIT大国だから公共施設のホームページはどこもすごくしっかりしているんだけど。
ことネットに関してオードリー・タンと夫とどちらを信用するかと言われたら、夫にベットする人がいるでしょうか?
私の疑惑のまなざしをものともせず
「君は寝れそう? 本読むの? じゃあ先に寝るね」
あ~これはそもそもあなたが言い出した旅で、リサーチは任せておけと引き受けて、何より「今回の旅はゆっくりしよう。君の体が第一だよ」とか言いましたよね。確かに言いましたよね?
つめよろうにも、 既に彼はぐーぐー寝ています。
仕方なく私は二冊目の本を開きました。
後から思えば、空港にいるのだからコインロッカー(行李房)を探して荷物を預ければもう少し気持ちも楽だったはずです。
ですがその時は疲れて頭が働かず、夫が起きると今度は私が荷物に覆いかぶさるようにして寝ました。
(↓恨み言を言う元気もなかったので、旅のノートに恨みイラストを描きました。リュックに覆いかぶさって寝る自分)
そして朝6時、まだ激しい雨が降る中、台中に向かう高速バスに乗り込みます。
目的地は台南。節約のため新幹線には乗らず高速バスと台鉄を組み合わせました。
バスの中からうつらうつらしながら外を見ていると、だんだん雨が上がり、空が明るくなってきます。
漢字ばかりの看板、バイクの群れ、日本では見かけない植物…「台湾に来たんだな」という実感がわいてきます。
「Bくんには11時には着くって連絡したよ。15時のチェックインまで荷物を預かってくれるって。遅れるとその間スタッフが待ってないといけないから、必ず11時には着くようにしようね」
スタートから予定が狂いましたが、バスは快調に走っているし、このまま行けばなんとかなるでしょう…。
続く
■まとめ
どこを旅するにあたってもそうですが、交通機関や宿泊は「費用をどれくらいかけるか」で内容ががらりと変わります。
今回も桃園空港で寝たくなければ桃園や台北のホテルに電話して多少お高くても部屋を押さえ、タクシーで向かうことは不可能ではありませんでした。
また北から南への移動も台湾高速鉄道(いわゆる新幹線。日本の新幹線の技術を使っているので東海道新幹線に乗っている気分になれます)を使うと快適で速いですし、もっと言えば成田から高雄空港に飛べば北から移動する必要すらないわけです。
夫は常々
「金を出せば快適な旅はできるけど、いろいろと不自由があった方が出会いや発見がある。
旅は金を出せば出すほどつまらなくなる!!」
と言いますが、これはこれで偏った意見でして、とにかく私達のとる手段は毎回参考にならなくてすみません。
話は変わりますが、今回の旅は、言語に関しては完全な分業制をとりました。夫が中国語、私が英語(ざっくりEnglish)。
台湾では基本的に中国語(台湾華語、あるいは北京語)が出来れば問題ないのですが、中国語はヒアリングがものすごく難しいため、
夫が中国語で話す→台湾の方がそれを理解して答えてくれる→が、返答が聞き取れない
ということがよく起こります。
そういう時は私が出て行き、ネイティブでない人間同士のおおらかな英語でやりとりします。
この分業制は意外によく機能して、今回言語が分からなくて困るということはほとんどありませんでした。もちろん痒い所に手が届くような理解や表現には程遠いですが、言葉に関してはなんちゃって中国語&英語でなんとかなるようです。
ちなみに「台湾は日本語が通じる」と言われますが、日本が統治していたのが1895~1945年までの50年間ですから、
統治の影響で日本語がしゃべれる世代は既にかなり高齢で、まちで実際に日本語スピーカーにお会いすることは希です。
空港や駅でも日本語は通じないと思っていた方がいいと思います(日本人が多く泊まるホテルには美しい日本語のスタッフさんがいらっしゃいますが)。
空港で思い出すべきだったコインロッカーの存在ですが、コインロッカーは和製英語です。
このことを忘れて私は何回か会話で使ってしまったことがありますが、でも通じてしまいました(それはそれでなんだか恥ずかしい…)。
本当はluggage lockers、あるいは文中にもありますが筆談で「行李房」と書けばコインロッカーの場所を教えてもらえ、荷物を預けられます。
オープンちゃん動画もどうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=CSWX3xxzggM